大学病院の新生児集中治療室(NICU)で働いていた頃、少子化だというのが信じられないほど、毎日たくさんの赤ちゃんが搬送されてきました。
そこでたくさんの頑張る赤ちゃん、ママ、パパを見て、「小さく生まれること、病気を持って生まれることを防げたら」と思っていました。
日本は低出生体重児(2,500g未満で生まれる赤ちゃん)として基準よりも小さく生まれる赤ちゃんの割合がOECDでトップクラス。その要因の一つが、妊娠前の女性の栄養状態の悪さだと言われています。日本では、20代女性の約20%が、体格指数(BMI)が18.5未満の「やせ」の状態です。
やせ以外にも、妊娠中に感染すると赤ちゃんの病気の原因になる風疹、無症状で気づきにくいにも関わらず不妊の原因となるクラミジア感染症、妊娠前からの摂取が推奨されている葉酸サプリメントなど、妊娠前からできる『妊活準備(プレコンセプションケア)』はたくさんありますが、日本では浸透していないのが現状です。
そして、若いカップルにそれを教えてくれるところはありません。
結婚のタイミングで知っていれば健康に与える悪影響を防げる知識や技術は、妊活に限らずたくさんあります。しかし、いまの日本ではそのようなことを教えてくれる場所がありません。そして私たち看護師は日々のケアのなかで、「若いうちから健康について知っていてくれたら、どんなによかったか」と常々思っています。
ナイチンゲールは看護を、環境を整えることで患者の生命の消費を最小限にすることと表現しました。彼女の生きた時代は感染症の時代だったため、清潔な環境を整えることで多くの患者を生命の危機から救ってきました。清潔環境が当時よりもずいぶんと改善された現代、私たちの周りには健康に関する情報があふれかえり、同時に見逃されています。私は現代の看護師の役割には、情報の整理による環境整備によって、生活する人々の生命の消費を最小限にすることも含まれているのではないかと考えます。そしてそれを行うためには、日常を送る人々が、いつもの生活を送っている中で看護師と出会える環境を作ることが必要だとも考えています。
私たちSmart Nurseは、日常生活を送る人々の環境を整えることで、予期せぬ病気や不幸を防ぎます。そのために、社会のあらゆる場所に、看護師やケア提供者と出会える場所を作っていきます。
矢込香織(Kaori Yagome)
慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。聖路加国際大学大学院に在籍中。看護師・保健師。
大学病院の小児病棟やNICU、産婦人科クリニックでの勤務経験あり。またメディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わり、フリーのライターとして国立成育医療研究センターの『プレコンノート』の執筆を担当。